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月下の王 part6

 第二夜 其の二 君の影


「……来たようだな」
 朔夜は校門前で僕を待っていた。
 昨日の件で僕と行動を共にするとは言ってたが、まさか僕の帰りを待ち構えているとは思わなかった。しかも、遠くからでも目立つ漆黒のコートを着て、その美貌も相まって完全に浮いている。僕と謎の美少女が一緒にいる姿を他の生徒から不審そうに見られているのを僕は我慢しなければならなかった。
「……よく僕の通ってる学校がわかったね」
「昨日の件のあと、勝手ながらオマ……葉流の身辺を調べさせてもらった。私立白坂高校一年二組黒宮葉流。五月三十日生まれの双子座のA型。家族構成は両親に妹が一人の四人家族。父親が外資系のサラリーマンで母親が専業主婦。妹は中学二年生で剣道部の部長をやっているそうだな」
「どれだけ調べたんだよ……」
 この娘に個人情報の大切さというものを教えてやりたかった。
「それで、僕の身辺を調べてみて何かわかったことは?」
「特には。本当になんの面白味もないやつだな。闇の使徒にケンカを売るようなやつだからどんな大物かと思って調べてみれば、葉流からは大した情報がでないんだ。あたしの期待を返してくれ」
「知らないよ、そんなの……」
 このまま立ち話をしていても無駄に注目を集めるだけだ。明日にはクラスで変な噂を流されかねない。さっさと場所を移した方がいいだろう。
「それにしても、こんな目立つ場所でどのくらい待ってたのさ」
「なに、たったの一時間程度だ。時折男子学生から嫌らしい目つきで見られたが、睨み返してやればねずみのように逃げ去っていく。まったく軟弱な男どもだ」
「君も暇だなぁ。学校には通ってないの?」
「あたしに学校など不要だ。勉強する必要もガキどもと戯れている余裕もない。あたしの存在意義は、闇の使徒を殺し尽くすことだけだ」
「……だからそんなに無愛想なのか。いつも不機嫌そうだし」
「余計なお世話だ! さぁ時間もないことだしさっさと行くぞ!」
 おまけに短気だ。ただ、感情の起伏が激しいだけなのかもしれないけど。
「ところで、僕らはどこに向かってるんだ? 闇の使徒を倒しにいくのか?」
「闇の使徒は夜間でないと出現しない。その点では、日中の安全は保証されていると言っていいな」
「やっぱり闇の使徒が連続失踪事件の犯人なのか?」
「ああ、それは間違いない。我々十六夜が調査したところ、わかっているだけで二百件以上の被害が報告されている。……その被害者リストの中に君の友人の名前はなかったがな」
「そうか……」
 良かった。これで最低でも那生がこの世界から消えていないことがわかった。なぜ彼女が行方をくらましているかという根本的な疑問は残るが、那生がどこかにいることは確かだ。それだけわかれば、僕は大丈夫だ。
「……あれ、その『十六夜』ってなんなんだ?」
「政府直下の闇の使徒特別対策室、通称『十六夜』。本来は東日本の夜徒(ヤト)を管理する組織に過ぎなかったが、闇の使徒の横行により闇の使徒の討伐をメインに活動する組織だ」
「え……ヤ、ト……?」
「ああ、済まない。唐突に色々聞かされても混乱するだけだな。こういうのは順序立てて説明した方がわかりやすい」
 朔夜は歩きながらも途切れることなく説明してくれた。
「葉流も昨日見ただろう、あたしが持ってた巨大な鎌」
「ああ、うん」
「あれは霊器といって、己の信念や存在意義、精神や意志といったものを結晶化したものだ。一種の超能力みたいなものだな。形状は人それぞれだが、その異能を発揮できる条件は皆決まっている」
「その条件って?」
「霊器が発現できるのは日が沈んでいる夜間に限る。日中は異能の力を発揮できないんだ。だからあたしたちは夜の使徒という意味で『夜徒』と呼んでいる」
「じゃあ、今はその……霊器、だっけ? あの鎌は出せないの?」
「そういうことになるな。夜徒になれば身体能力も飛躍的に上昇するが、肝心の霊器は使えない。今のあたしはそこら辺にいる普通の女と変わらない、無力な存在だ」
 何かを悔やむように、何かを貶すように朔夜は語る。
 その横顔がとても見ていられなかったから。
「……つまり、君たちみたいな夜間限定の異能力者を夜徒と呼び、その夜徒の組織が十六夜。で、十六夜の目的が闇の使徒を倒すこと……であってる?」
「要約するとその通りだ。頭悪そうな顔の割には理解は早いんだな」
「それ絶対馬鹿にしてるだろ」
「褒めてはいない」
「可愛くないな」
「可愛くする必要なんてあたしにはない」
 そうやって取り止めのない会話で場を流す。
 最初は取っ付きにくい人間かとも思ったが、案外普通に話ができる。多少言葉に棘があるが、それもいずれ慣れるだろう。
「……ここって」
「葉流は知らないのか? 親友の家だろ?」
「親友といっても彼女の家にお邪魔したことはないんだ」
「甲斐性のないやつ」
「う……」
 朔夜に連れられてやってきたのは、白坂高校から地下鉄で二駅ほど移動した高級住宅街、その一角。門前に仰々しい表札で『彩川』と掲げられているのだ。ここが那生の実家なのだろう。
「……それにしても、立派な家だね」
「彩川那生の父親は元政治家の彩川逸夫氏だ。……もっとも、現在は彼女しか住んでいないようだがな」
「そういえば、那生とそんな話をしたことがあるような……」
 あれは確か、六月頃だったかな?
「でも、なんで那生の家に?」
「ちょっと調べ物だ」
 そう言うと、朔夜はコートのポケットからおもむろに鍵を取り出し、ガチャリ。
 ――って、
「なんで朔夜が那生んちの鍵を持ってるんだよ!?」
「言い忘れていたが、彩川那生の兄である彩川昇はあたしたち十六夜の室長。つまり上司だ」
「……え?」
 どういうこと?
「父親の繋がりもあって、彩川室長は闇の使徒特別対策室を設立。以降、闇の使徒殲滅の最前線に立っているというわけだ」
「ちょ、ちょっと待って!?」
「なんだ?」
「じゃあどういうこと!? 那生は朔夜たちの仲間ってことか? それで闇の使徒に関わったばっかりに」
「落ち着け、黒宮葉流」
「で、でも!」
「彩川那生は十六夜には所属していない、普通の一般人だった」
「……え?」
「室長も妹をあまり危険な目には合わせたくなかったんだろう。十六夜の情報は機密性が高いものも多いから、兄妹間でも情報の交換はなかったはずだ」
「だったらなんで失踪を……」
「その理由を探すために来たんだ」
「勝手にお邪魔していいのか?」
「室長からの許可はもらった。彩川那生の部屋に入ってもいいそうだ」
「う……罪悪感」
「失踪した親友を見つけだしたいんだろ? だったら覚悟を決めるしかない」
「覚悟……」
 彼女の家に無断であがるという後ろめたさと、未知の領域への期待感。
 相反する気持ちを抱きながら、僕は那生の家に踏み込んだ。

 主が不在の家屋は当然のように静まり返っていた。
 ここに彼女は住んでいるのだ。
 家中から那生の匂いがする。当たり前だが。緊張する。那生の家。プライベート。僕の知らない那生がここにある。彼女の姿がかぶる。胸が高鳴る。この感情は? 背徳感? 興奮? ありえない。不謹慎だ。別に遊びにきたわけではないのだ。考えろ。頭を働かせるんだ。彼女の手がかりを見つけるんだ。
 朔夜が先頭になって廊下を歩く。彼女は家の構造を知っているのだろうか。迷うことなくリビングを横切り、階段を上り、二階の一番奥の部屋にたどり着いた。
 部屋の扉には『那生』のプレートが。
「……ここだな」
 ここが。
 那生の部屋。
 とくん。とくん。とくん。とくん。
 心臓の音。
 きた。
 とうとう。
 朔夜がドアノブをひねる。
 鍵は掛かっていなかった。
 キィ。扉が開いた。
 恐る恐る覗く。
 ベッド、机が見える。
 本棚、かなり大きい。千冊以上は収容されているんじゃないだろうか。
 彼女らしいシックな部屋だった。
 八畳ほどのスペースに、家具は机とベッド、クローゼットに本棚くらい。壁紙やカーテンは白で統一され清潔感がある。ポスターやファンシーグッズの類は見られない。無駄なものが一切ない、那生という存在を体現した部屋。ある意味予想通りといった感じだろうか。
「パソコン……はさすがにロックがかかっているか。おい、葉流はパソコンに詳しくはないのか?」
「そんなに詳しくはないけど……ってなに勝手に起動してるの!?」
「何か情報を残しているかと思ったが……仕方ない。他を探すか」
 パソコンから興味を失った朔夜はすぐさま本棚をあさる。この娘には他人の部屋を探るという行為に抵抗はないんだろうか。
「純文学、思想書、哲学書、科学物理経営学、なんでもあるな。彩川那生は相当本好きだったようだな」
「暇なときは大抵読書をしてたからね。読書が趣味というか、ただの暇つぶしだったようだけど。それでもジャンル関係なく何でも読んでいたから、本の虫ではあったんだと思う」
 時には動物図鑑から児童書まで読んでいた。見境がないにもほどがある。
「はー」
 自分から訊いたのに関心はないのか、気のない返事の朔夜。
 どうにも二人に温度差がある。これもまた仕方のないことか。
 僕は僕で行動するとしよう。
 黙々と捜索活動を続ける朔夜から眼を離し、何気なく机の脇に置いてあるゴミ箱に眼をやる。
「これは……」
 思わず手に取る。
 ゴミ箱に捨てられていたのは、ノートの切れ端と思われる一枚の紙片。
 書かれていたのは数個の言葉のみ。
「……霊器……新宿……二十四区……闇の使徒」
 どういう意味だ?
 やはり那生は闇の使徒を追っていた。宝寺さんの話どおり、都市伝説でしかない東京二十四番目の区にも興味を示していた。それらがどのように繋がっているのか。新宿? 新宿に二十四番目の区があるというのだろうか。それと、霊器。この言葉の真意は……。
「……おい。面白いものを見つけたぞ」
「え?」
 那生が残した紙片に気を取られていると、朔夜が語調を上げて何かを押し付けてきた。
 やけに分厚いファイルだ。
 朔夜がファイルを開く。すると様々な文字や記号が僕の眼に飛び込んできた。
「これは地域別で見た失踪者の割合分布図だろう。失踪者数でいったら新宿、渋谷が断トツだな。そしてこっちは闇の使徒の出没分布図だろうな。この二つを照らし合わせてみれば、闇の使徒が失踪事件に関わっていることは一目瞭然だ」
 ふーん。って、
「何でそんなものが那生の部屋にあるんだよ。那生は闇の使徒とは関わってないし、十六夜とも関係ないんだろ?」
「そのはずだが、これを見る限りでは闇の使徒に関して我々十六夜並か、それ以上に知っていたようだな。十六夜のサーバーからハッキングしたのか独自に調べたのかはわからないが、大したものだ」
 朔夜は感心したのか、素直に那生を賞賛していた。
 そういう問題か、これ。
「なぁ、朔夜の言ってた面白いものってこのことなのか?」
 那生が闇の使徒を追っていることがこれで確定的になったが、別段新情報が手に入ったわけではない。那生を探す手がかりにしては心許ないだろう。
 葉流の不安をよそに、朔夜は目つきを変えて言った。
「違う違う。あたしが気になったのはこっちの方だ」
「こっち?」
 朔夜が指さした方を見た。
 先程の分布図とは少し違う、さっきまでは気にも留めていなかった赤い丸印だ。これは地図の中でも限られた場所にしかついていなく、それまでとは明らかに別の意味を持ってそうだった。
「印がつけられているのは新宿に三つ、渋谷に二つだな。これは十六夜の資料にも載ってなかったはずだ。それはつまり、我々が知らなくて、彩川那生だけが知ってる情報があるということだ」
「それが、手がかり……」
 那生への道しるべが見えた。
 これが本当に那生に繋がっているかはわからない。これがどのような意味を持っているのかもわからない。
 それでも。
 この先に、かならず那生はいる。
 朔夜は言った。
「とりあえず、ここから一番近い赤印の場所の行ってみよう。なにか分かることがあるかもしれない」




……Next 第二夜 追憶三

テーマ : 自作小説
ジャンル : 小説・文学

プロフィール

友井架月

Author:友井架月
筆名:友井架月(ともいかづき)
性別:男
血液型:A型
誕生日:5月30日
趣味:創作活動
詳細:平成生まれの自由人。より良い作品を残すために日々模索中
ピクシブにて18禁らしい小説も投稿中。

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